2023年7月アーカイブ

こんにちは、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。

前回、お茶の水セルクリニックの寺尾先生と対談をさせていただいた際に、フレイルに関する話題が出ました。

 

寺尾先生との対談のブログはこちらをご覧ください。

寺尾先生と幹細胞の点滴について対談・前半~脊髄損傷と腰痛や座骨神経痛などの慢性疼痛への幹細胞治療について

 

寺尾先生と幹細胞の点滴について対談・後半~身体的フレイルに対する幹細胞治療とプレフレイルについて

 

そこで今回は、フレイルについてもう少し詳しく解説させていただきます。

 

フレイルの定義と原因

フレイルの定義.png

フレイルは簡単に言うとヨボヨボと申し上げました。フレイルというのは、比較的新しい概念だと思います。

フレイルとは別に老化というのは、微細な炎症が体のいろいろなところで起きている状態です。

老化に対する治療法で有効なのは間葉系幹細胞で、炎症を抑える作用が強いです。

微細な炎症を抑えてくれるので、老化の進行を遅らせるという臨床試験が行われています。

その臨床試験について、ご紹介していきます。

 

臨床試験の結果についてはインターネット上で公開されています。

一番よく見るのはPubMedというサイトです。

 

PubMedに「フレイルの間葉系幹細胞の臨床試験結果」という形で検索をかけると一つだけ臨床試験の結果がヒットします。

この臨床試験は、マイアミ大学のグループが2017年に発表した臨床試験です。

当院で扱っているTOPs細胞®︎脂肪由来の間葉系幹細胞ですが、マイアミ大学のグループは骨髄由来の幹細胞を使っています。

どちらも似たような作用がありますが、TOPs細胞®と違うということをご理解してもらった上でお話をしていきます。

 

マイアミ大学.png

 

マイアミ大学の臨床試験の内容

 

マイアミ大学では第II相ランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験を行いました。

第二相.png

こちらの試験は無作為に“幹細胞を実際に打つ人”と“幹細胞ではないものを打つ人”に分けます。

どの人が幹細胞を打って、どの人が偽薬を打ったかを患者も医師もわからないようにするというのがランダム化二重盲検というものです。

試験する医者も受ける患者もわからないので、本人の解釈や結果というプラセボ(偽薬)効果が出にくいです。

 

具体的な試験内容としては、患者の数は30人で平均年齢が75歳の方々で試験を行います。

試験のグループ.png

他人の骨髄から採った間葉系幹細胞を、1億個と2億個を入れるグループと何も入れないという3グループに分けて10人ずつに分けて点滴をしました。

 

その後、点滴してから6ヶ月にわたって以下の状態を観察していきました。

・6分間歩行試験

・短時間の身体能力検査

・1秒間の強制呼気量

・QOL調査

・血清TNFーα値の調査

など

 

結果としては1億個、2億個の点滴をした群で明らかに運動能力や呼吸機能が改善したり、体の中の炎症状態が良くなりました。

プラセボ効果がないので、これは臨床試験としてはかなり信頼性が高いです。

 

試験の結果.png

 

この結果からわかる事は、他の患者が同じような治療を受けた場合に同じ結果が期待できるという事です。

当院で扱っているTOPs細胞®は、脂肪由来の間葉系幹細胞ですが臨床試験の報告は骨髄由来幹細胞ですので、臨床試験の結果が少し異なる可能性はありますが、間葉系幹細胞というのは骨髄由来でも脂肪由来でも比較的同じような結果が出るということが色々な疾患の領域で確認されています。

フレイルでも同じような結果が導かれるということが期待されます。

 

フレイルでも効果あり.png

今回は、間葉系幹細胞のフレイルに対する臨床試験の結果についてご紹介させていただきました。

当院ではTOPs細胞®  を用いてフレイルに対する治療を行っています。

もし、ご自身の老化状態あるいはフレイルに当てはまるのではないか?と気になるようでしたらぜひ一度ご相談下さい。

 

こちらの内容は動画でもご覧いただけます。

生体から細胞を採取して加工する再生医療に対して、倫理的な問題も関わってくるため、どの国も規制を設けています。当然、日本でも安全性と患者様への利益を最優先して、再生医療が行われています。
今回は、再生医療にまつわる法律について解説します。
 

日本では再生医療はほぼ自由診療だが届け出が必要に

 

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日本は国民皆保険制度のもと医療が受けられ、国が保険診療をきちん管理しています。しかし、再生医療の大半は保険診療ではないため、医師の権限が大幅に認められているのです。
当クリニックで行う治療は、自由診療がほとんどです。公的な医療保険が適用されない医療技術や薬剤による治療のことで、患者様は全額負担となります。ですから、医師が責任を持って患者様に詳しい説明をして同意を得たうえで、医療を行います。
 
医師は日本では承認されていない医療機器を独自のルートで入手し、診療に使うことができます。光エネルギーを使って顔のシミやくすみを治す医療機器の多くは、まだ日本では承認されていません。しかし、多くの皮膚科や美容整形外科に導入され、ポピュラーになっています。医師は海外製の機器を輸入する権限も、利用して治療する権限も与えられているのです。

再生医療を安全に行うための法律を制定

2014年に再生医療に関わる法律が制定されました。
ひとつは、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」、もうひとつは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」です。
これにより、ほぼ自由に行えていた再生医療が、厚生労働省への届け出制になったのです。
届け出をする前に、医療や法律の専門家など有識者が集まった「認定再生医療等委員会」の承認も必要です。再生医療は自由診療であっても医師に制限がある唯一の医療分野となりました。
この法律における再生医療等とは、細胞加工物を用いる医療技術のうち、輸血、造血幹細胞移植、生殖補助医療を除いたものをさします。

 

「再生医療等安全性確保法」で知っておきたいポイント

「再生医療等安全性確保法」の第一章第一条には、この法律の目的が示されています。
 
「この法律は、再生医療等に用いられる再生医療等技術の安全性の確保及び生命倫理への配慮(以下「安全性の確保等」という)に関する措置その他の再生医療等を提供しようとする者が講ずべき措置を明らかにするとともに、特定細胞加工物の製造の許可等 の制度を定めること等により、再生医療等の迅速かつ安全な提供及び普及の促進を図り、もって医療の質及び保健衛生の向上に寄与することを目的とする」
 
法律ですから、わかりにくいのですが、要するに「安全性の担保された再生医療をできるだけ早く患者様に提供することで、医療の質や保健衛生の質が高まる」と厚生労働省が認めてくれたということです。
 
この法律のポイントは次の3つです。

リスクの高さによって分類

〇第一種再生医療等
ヒトに対してまだ実施されていない、高リスクな技術を要するもので、ES細胞、iPS細胞などを用いた再生医療です。
 
〇第二種再生医療等
中程度のリスクを伴う治療で、培養した幹細胞を注射や点滴で体内に入れるもの。クリニックレベルでも提供が可能で、当クリニックで行っている治療もおもに第二種再生医療等です。
 
〇第三種再生医療等
もっともリスクが低く、培養しない幹細胞の局所注射などが該当します。血小板療法を用いた歯科医のインプラント治療も第三種で血小板療法では、患者様の血液から血小板を分離して治療に用います。現在、血小板療法の登録をしている医療機関の2/3が歯科医院です。
 

厚生労働省への届け出が必要

再生医療施設として治療を行うためには、提供する医療の計画書を作成し、(特定)認定再生医療等委員会に提出して審査を受けなければなりません。審査に合格すると、厚生労働大臣へ提供計画書を提出します。
リスク分類の第二種、第三種の再生医療は、書類が受理されれば医療提供が可能になりますが、リスクの高い第一種はさらに厚生科学審議会の意見を受け、計画の変更等をしたのちに医療提供ができます。
きちんと手順を踏んでいる医療機関の情報は、厚生労働省のホームページで確認できます。
再生医療が受けられる医療機関を探す際は、厚生労働省のホームページでチェックするのが安心です。
 
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厚生労働省HPより抜粋
無届けで治療や細胞加工を行った場合は、法律によって罰則が科せられます。
 

細胞培養を外部委託できる

「再生医療等安全性確保法」ができるまでは、細胞を用いる医療機関は、培養も投与も自分たちの病院なりクリニックで全て行い、責任を持つ方式でした。
しかし、新法では細胞培養や細胞加工を外部の施設に委託していいことになったのです。これが再生医療の裾野を大きく広げました。細胞培養の施設を院内に作ろうとすると、設備投資が必要になり、資金やスペース確保などが大きな壁になっていたからです。
 
当クリニックは、細胞培養施設を院内に設けました。クリニックレベルでは珍しい例ですが、どうしても医療と細胞培養の両方を兼ね備えることにこだわったのです。
 
細胞培養に必要な設備や、培養方法については、改めて解説いたします。
再生医療は歴史が浅く、まだまだ発展途中です。伸びしろがあり期待値も高いのですが、さまざまなリスクも懸念されています。ヒトの細胞を扱う上で、まず倫理的問題があげられますが、病気から人を救うための医療が悪事に使われる危険性もはらんでいます。今回は、再生医療にまつわる事件をまとめました。
 

本記事の要約

再生医療は大きな期待を集める一方、過去には不正事件が発生し、その発展を妨げてきました。​1981年のクローンマウス作製におけるデータ改ざん、2012年のiPS細胞を用いた心筋手術の虚偽報告、そして日本中を騒がせたSTAP細胞事件などがその例です。​さらに、臍帯血の不正利用も問題となりました。​これらの事件は、再生医療の信頼性を損ない、研究の進行を遅らせる要因となりました。​今後の健全な発展のためには、倫理的な取り組みと厳格な法整備が不可欠です。
 

専門家も驚愕。データ改ざんや虚偽報告の数々

 

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真摯に研究に打ち込んでいる人たちがいる一方、故意に不正を働く研究者がいるのも実情です。
1981年、スイス・ジュネーブ大学とアメリカ・ジャクソン研究所が共同で発表した「クローンマウスの作製方法」に疑惑の目が向けられました。それまで哺乳類のクローン化は不可能だと言われていたため、「ハツカネズミの体細胞からクローン化が可能である」と発表されたときには、世界中から注目が集まりました。

再生医療への注目と不正の発覚

しかし、研究者の一人がデータを故意に操作していたことが発覚。以降、クローン生物の研究は一時下火になったと言われていますが、1996年にクローンヒツジのドリーが誕生し、驚きのニュースとして伝えられました。
2012年には、日本人研究者による不正が発覚。「iPS細胞を使った心筋手術を6件成功させた」と学会で発表しましたが、そのうち5件は虚偽だったことが判明したのです。
当時、iPS細胞を生み出した山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したばかりだったため、「iPS細胞を使用した治療の世界初の例」として大きな話題となりました。
5件の虚偽は認めたものの、残り1件は疑惑がもたれたままで今に至ります。

 

連日テレビで取り上げられた「STAP細胞」事件

日本中が大騒ぎしたといっても過言ではない「STAP細胞」事件は、まだみなさんの記憶に残っているのではないでしょうか。
STAP細胞は、正式名を「刺激惹起性多機能性獲得細胞(しげきじゃっきせいたのうせいかくとくさいぼう)」といい、Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotencyの頭文字をとったものです。哺乳類から採取した体細胞に刺激を与えることでES細胞やiPS細胞に匹敵する多能性をもつ未分化の細胞を作ることができるという理論でした。
生後間もないマウスの脾臓からリンパ球の一種である細胞を取り出し、弱酸性の溶液に浸すことでSTAP細胞の作製ができると発表したのは、理化学研究所発生・再生科学総合研究所センターに所属していた研究者です。このSTAP細胞をマウスの皮下に投与し、皮膚や筋肉組織をつくることにも成功したと報告しています。

権威ある科学雑誌の記事が取り下げられる事態に発展した「STAP細胞」

論文は、権威ある科学雑誌『Nature(ネイチャー)』に掲載され、再生医療に携わる者に驚きを与えました。掲載された内容でSTAP細胞が作製できれば、iPS細胞よりも格段に簡単で効率がよく、再生医療への応用が大いに期待できるからです。
しかし、この方法で追試験を行った研究者の誰一人としてSTAP細胞を作製できませんでした。データの不備や不正が指摘され、裏付けが不十分であることから『Nature』も論文を撤回することに。
それでも研究者は主張を曲げず、「STAP細胞はあります!」と高らかに訴えたのは、多くの人がご存じでしょう。
 

血液のがん治療に有効な「臍帯血」も不正が横行

 
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1980年代に、臍帯血のなかに血液のもととなる造血幹細胞が含まれることが明らかになりました。臍帯血とは、胎児と母体をつなぐへその緒に含まれる血液のことです。
80年代後半から白血病、悪性リンパ腫など「血液のがん」に対する治療に用いられるようになりました。
出産後の臍帯(へその緒)は不要なため、臍帯血を採取することで母体、胎児ともにリスクを負うことはありません。臍帯血には良好な間葉系幹細胞が含まれているので、臍帯血を用いる医療にとってはとても有効なものなのです。
1990年代には臍帯血を冷凍保存する「臍帯血バンク」が複数設立されました。しかし、2014年に「再生医療等安全性確保法」が施行されるまで法律による規制がほとんどなく、臍帯血の出どころや管理がずさんな機関もあったのです。
閉鎖した臍帯血バンクから流出したとされる臍帯血が出回ったり、提供者が不明な臍帯血が医療現場で使用されたりすることも起きました。
再生医療においては、他人の細胞を使うときは、どういう提供者なのかを明確にする必要があります。提供者が不明な臍帯血でよければ、不正に入手して転売したり、子どもをたくさんつくり臍帯血を採取してお金儲けをしようとしたりする人が出てくる恐れがあります。
 
データの改ざんや不正、臓器売買は許されないことですし、再生医療の健全な発展を妨げることになります。法整備も進められていますが、今後も厳しい目でチェックしていく必要があります。
 
 

FAQ

Q1: 再生医療における主な不正事件とは何ですか?

A1: 主な不正事件には、1981年のクローンマウス作製におけるデータ改ざん、2012年のiPS細胞を用いた心筋手術の虚偽報告、そしてSTAP細胞事件などがあります。

Q2: STAP細胞事件とは何ですか?

A2: STAP細胞事件とは、刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP細胞)の作製方法が発表されたものの、再現性がなく、データの不正が指摘され、最終的に論文が撤回された事件です。

Q3: 臍帯血の不正利用とはどのような問題ですか?

A3: 臍帯血の不正利用とは、提供者が不明な臍帯血が医療現場で使用されたり、臍帯血の出どころや管理がずさんな機関が存在したりした問題を指します。
 
 
<記事更新:2025年4月12日>
これまで根本的な治療法がなかった病気やケガに対して、もともとヒトに備わっている細胞の修復、再生する力を活かしたのが再生医療です。難治性疾患だけでなく、美容効果も期待できると、近年話題になっています。今回は、再生医療で用いられる細胞や治療薬の現状についてお話します。
 

再生医療での活用を期待されている幹細胞は大きくわけて3種類

 

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細胞には特定の役割が決められたものと、減ってしまった細胞の代わりに複数の組織にでもなれる細胞があります。それが、再生医療に活用されている幹細胞です。
現在、再生医療で使用されているもの、これからの使用が期待できるものとして3種類の幹細胞があります。ヒトの体であればどんな組織、細胞にもなれる多能性幹細胞の「ES細胞」と「iPS細胞」、決められた組織や臓器で代わりを務める組織幹細胞のひとつ「間葉系幹細胞」です。
現在進行形で研究が進められている再生医療。まだ課題は多く残されていますが、切らない治療で体への負担がかからず、副作用も少ない治療に期待が高まっています。

 

ES細胞を活用するのには倫理的問題から懸念が残る

ヒトの受精卵が数回分裂し、100個ほどの細胞のかたまりとなった胚から取り出したのが、ES細胞です。体中のあらゆる組織、臓器になれる能力を秘めた万能細胞で、1950年代から研究が行われてきました。
1981年にはイギリスのケンブリッジ大学遺伝子学部門で、マウスの子宮内で採取した胚からES細胞を樹立することに成功。
1998年にはアメリカのウィスコンシン大学の研究グループが、ヒトの胚性幹細胞を単離・培養する技術を世界で初めて開発。ES細胞を再生医療に応用する研究は、ここからがスタートとなりました。
万能細胞であることが、大きな壁となってしまう面もあります。ES細胞は受精卵から採取されますので、むやみに利用するわけにはいきません。これが許されるのであれば、再生医療のために受精卵を作らせて売買するというビジネスが成立してしまう可能性があるからです。
日本では少子化、出産の高齢化もあり、不妊治療が盛んです。2022年からは体外受精などの不妊治療が保険適用になりました。高額な治療費のために諦めていた人には朗報なのですが、再生医療の観点からすると使用されなかった受精卵がES細胞として使われる懸念があります。他人のES細胞を使用することで、拒絶反応が起こる可能性もありうるため、まだまだ再生医療での実用は難しいと考えられています。
 

実用化に向けての治験が進むiPS細胞にも問題あり

 
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人工的に作製した幹細胞で、ES細胞と同じようにどんな細胞にもなれる能力をもっているのがiPS細胞です。
2006年にiPS細胞が開発されてから、初めて臨床医療に用いられたのが2014年。「加齢黄斑変性」という目の難病に対して、患者の皮膚細胞からつくられたiPS細胞を移植する手術が行われました。大きくニュースで取り上げられたので、耳にした人も多いのではないでしょうか。同年にはパーキンソン病に対する治験が行われ、2020年には重症心不全の患者に対し、iPS細胞からつくったシート状の心臓筋肉細胞が移植されました。
難治性疾患への活用が期待され、再生医療の救世主と言われるiPS細胞ですが、リスクがゼロというわけではなく、問題があります。治験が進むなかで、がんを誘発するケースが報告されているのです。しかし、今後研究がさらに進み、がん化のリスクが取り除かれれば、理想的な医療が実現できるものと考えられています。
 

保険適用の対象となっている間葉系幹細胞を使った治療薬

ES細胞やiPS細胞のようにあらゆる組織、臓器に分化することはできないけれど、限定された細胞に分化することができるのが組織幹細胞です。なかでも、骨髄のなかにある間葉系幹細胞は、筋肉、軟骨、神経などに分化することがわかっています。
ES細胞、iPS細胞とならんで、研究が進められてきました。医療現場で応用が始まったのは2000年前後で、すでに保険適用の対象となっている治療薬も出ています。

 

骨髄由来の間葉系幹細胞を培養した治療薬「テムセル」

再生医療の分野で最初に注目を集めたのが、骨髄由来の間葉系幹細胞です。2015年に、主に造血幹細胞移植後に起きるGVHD(移植片対宿主病)の治療薬として「テムセル」がJCRファーマより製品化されました。健康な成人の骨髄から幹細胞を採取して培養した薬です。
一般的に、造血幹細胞移植を行った場合、ドナー(臓器提供者)の造血幹細胞をレシピエント(臓器を受ける患者)の体が異物とみなし、拒絶反応が起こります。重篤な合併症であるGVHDの治療にはこれまでステロイドを使用していましたが、現在では「テムセル」が用いられるようになりました。
「テムセル」には、ドナー由来の細胞活性を抑制したり、レシピエントの免疫応答を抑制したりすることで、拒絶反応を遅延、回避する作用が認められていて、保険適用薬となっています。
 

患者本人から採取した間葉系幹細胞を用いる脊髄損傷治療薬「ステミラック」

もうひとつ、間葉系幹細胞を用いた治療薬があります。札幌医科大学と製薬会社のニプロが共同開発した「ステミラック」です。
転落や交通事故などによって脊髄が圧迫されて一度損傷すると、修復や再生はほぼ不可能と言われていました。損傷した位置によりますが、運動機能のマヒ、知覚神経障害、自律神経障害、排便・排尿障害など、日常生活に困難をきたす症状があらわれます。この脊髄損傷の治療薬が「ステミラック」なのです。
患者本人の骨髄から採取した間葉系幹細胞を用いているので、拒絶反応の恐れはありません。採取した幹細胞は2~3週間培養し、1億個程度まで増やして静脈から点滴で投与します。これまで治療法がなかった脊髄損傷が、手術をすることなくこれだけで治るのですから、まさに夢の薬です。ただし、脊髄に損傷を受けてから31日以内に骨髄液を採取できる患者のみで、ほかにも細かい適格基準があり、医師によって治療が可能かどうか判断されます。
事故やスポーツで脊髄損傷となるケースは少なくありません。「ステミラック」による再生医療が多くの医療機関で受けられるようになってほしいものです。
2012年に山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞してから、日本でも再生医療への関心が高まってきました。日本のみならず世界中で研究がなされ、1980年代から再生医療が本格的に行われるようになりました。
今回は、再生医療が発展するまでのあゆみをお話ししましょう。

 

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再生医療第一号はアメリカでの火傷治療だった

病気やけがで失われた組織を蘇らせる再生医療。1970年代には、マサチューセッツ工科大学のハワード・グリーン博士らによって、マウスの皮膚細胞を用いた培養方法が確立されていました。皮膚は最大の臓器と言われていて、人工的な培養技術の開発が進められていたのです。
実際の医療現場で培養皮膚を用いた治療が行われたのは、1983年のことです。アメリカのワイオミング州で、男の子2人が皮膚の95%も焼けるほどの火傷を負いました。当時の医療では助かる見込みはありませんでしたが、担当医師が焼けずに残った皮膚を切り取り、グリーン博士に送ったのです。皮膚の細胞を採り出し、培養してたくさんの皮膚をつくり、その皮膚を数回に分けて移植したことで、彼らは助かったのです。
これを機に皮膚細胞の培養研究が進み、日本では2007年にヒトの細胞と組織を活用した医療用自家培養皮膚が製品化されました。2009年からは保険適用となり、熱傷や巨大母斑などの治療に用いられています。
 

世界に衝撃を与えたクローンヒツジとバカンティマウスの誕生

1990年代後半は、再生医療の分野で衝撃的なニュースが続きました。まず、世界を驚かせたのは、1996年にスコットランドで誕生した体細胞クローンヒツジです。このヒツジは雌ヒツジの乳腺細胞核を培養した受精卵を、別の雌ヒツジの子宮に移植することで生まれました。40歳以上なら、ドリーという名前を覚えている人も多いのではないでしょうか。
ドリーは、世界初の哺乳類の体細胞クローンであり、乳腺細胞を提供した親ヒツジと全く同じ遺伝子であることが話題となりました。
 
翌年、1997年に注目を集めたのが、背中に大きな人間の耳をはやしたマウス写真です。ウシの軟骨細胞を培養し、型に入れて耳の形にしたものを型ごとマウスの皮膚に移植したのです。作製者は、マサチューセッツ大学医学部の麻酔科医だったチャールズ・バカンティ医師で、このマウスは「バカンティマウス」や「ミミネズミ」と呼ばれています。
耳や膝軟骨などの軟骨組織は、血流がないので自己再生能力が乏しく、けがをすると治りにくい組織です。また、生まれつき耳が小さい、耳がないという人もいるためその治療に活かせるかもしれないと、バカンティマウスの発表は画期的でした。
培養軟骨による耳の再生医療の研究は今も続けられていますが、治療は確立していません。移植しても形が崩れてしまうからです。もし、培養軟骨を用いた再生医療が確立されれば、耳だけでなく鼻の損傷の再建も可能になるでしょう。
 

膝関節の修復に自家培養軟骨「ジャック」を活用

耳の治療において培養軟骨を使用するのは難しいのですが、膝関節の修復に活用されています。しかし、患者数が非常に多い変形性膝関節症には使用が認められていません。2007年に登場した自家培養表皮「ジェイス」に続き、日本で2番目に認可されたのが、自家培養軟骨です。2012年に日本企業のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが「ジャック」という名称で製品化しました。ちなみに、この企業はアメリカで開発された自家培養表皮「ジェイス」の日本での生産管理をしています。

 

生きた細胞を使って失った組織を人工的につくる「ティッシュエンジニアリング」

培養技術を使い再生医療の製品を開発、製造しているのが、前述のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングです。企業名にもある「ティッシュエンジニアリング」は、再生医療を語るうえでキーワードの一つ。これは、1993年にアメリカの医師と、工学者が提唱した新しい医療の考え方で、「生きた細胞を使い、機能を失った組織や臓器を人工的につくり、本来の機能をできる限り保持した状態にする」ことです。
ティッシュ(生体の組織)とエンジニアリング(工学)を合わせた言葉で、日本では「組織工学」と表記されることもあります。
この技術が発展すれば、事故で失われた体の一部や手術で切除した臓器を再現できるのです。2021年4月の段階で骨や軟骨、血管、膀胱、皮膚、筋肉の修復、損傷したものと置き換える治療法として活用されつつあります。
 
しかし、形をつくるティッシュエンジニアリングを用いた治療は、処置や手術が必要になるため患者様にとって負担は少なくありません。リスクも否定できません。
私たちのクリニックでは、もう一つの再生医療である「セルセラピー」を採用しています。これは、形をつくったものを移植するのではなく、培養した細胞を患部に直接注射したり、点滴で体内に入れたりする治療法です。
どちらが優れているということはなく、どちらも進化途上の治療法です。症状を多角的に判断し、患者様と対話をしながらベストな選択をすることが医師としては大切だと考えています。
セルセラピーの治療法については、改めてお話ししましょう。
近年、ニュースなどで耳にする機会が増え、認知度が上がってきた「再生医療」。しかし、まだ発展途中の分野であることから安全性は大丈夫? 効果は持続するの?など、不安な声も聞かれます。
そこで、再生医療とはどんなものなのか、私たちのアヴェニューセルクリニックで行っている実例を交えながら基本的なことをお話したいと思います。まずは、再生医療で用いられる「幹細胞」について、解説します。

 

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けがや病気で失われた組織の細胞に代わって補充、修復できるのが幹細胞治療

再生医療とはヒトの皮膚などの組織や細胞を用いた治療法のことです。日本で、再生医療が脚光を浴びるようになったのは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したころからでしょう。
再生医療に用いられる細胞は、幹細胞と呼ばれるものです。まずはこの幹細胞についてお話します。
私たちヒトの体は、もとをたどれば「受精卵」という一つの細胞です。この受精卵が細胞分裂を繰り返し、骨や皮膚、筋肉などを作り上げていきます。細胞には決められた場所での役割があり、皮膚なら皮膚、心臓なら心臓で働き続けます。そして、細胞にも寿命があり、常に新旧入れ替わって組織の機能や形を保っています。
特定の役割が決められている細胞がある一方で、さまざまな組織になれる細胞が存在します。それが「幹細胞」です。普段は役割を決められた細胞に紛れて何も仕事をしていませんが、けがや病気でどこかの組織の細胞が損傷したり、数が減ったりしたときにその細胞の代わりに補充、修復をしてくれるのです。この性質を活かしたのが再生医療です。

 

幹細胞には「分化能」と「自己複製能」の能力がある

普段は仕事をせず、さまざまな組織に紛れて待機している幹細胞ですが、ここぞというときに二つの細胞に分裂し、それぞれ異なる能力を発揮します。
例えば傷を負って皮膚の細胞が多く失われたとき、それまでじっとしていた幹細胞が皮膚の細胞に変化します。体をつくるさまざまな組織に変化することを「分化能」と言います。
このとき、必ずもう一つの自分(幹細胞)を複製し、自分が消えてしまうことを防ぎます。これを「自己複製能」と言い、分身をつくることで同じ能力を持つ幹細胞の数を一定に保とうとします。しかし、幹細胞の自己複製能力は永遠に続くわけではなく、加齢とともに減ってしまいます。

 

幹細胞の種類は「多能性幹細胞」と「組織案細胞」の二つ

二つの能力をもつというお話をしましたが、種類も大きく分けて二つあります。一つは私たちの体の細胞であれば、皮膚でも心臓でも血液でも何にでもなれる「多能性幹細胞」です。もう一つは、皮膚や血液など決められた組織や臓器に存在し、ダメージを受けて消えた細胞の代わりになる「組織幹細胞」です。
それぞれについて、詳しく説明しましょう。

 

どんな細胞でもつくれるのが「多能性幹細胞」

私たちの体をつくるさまざまな細胞に変化できる能力を持っている「多能性幹細胞」には、「ES細胞」と「iPS細胞」があります。
ES細胞のもとは、ヒトを生み出す受精卵です。この受精卵が数回分裂して100個ほどの細胞のかたまりとなった胚の内側から細胞を取り出し、培養したものがES細胞です。まだ100個ほどの胚にしか分裂していないため、体のどんな組織、臓器にもなれる能力を秘めています。
iPS細胞は日本人にとって耳なじみがあるのではないでしょうか。これは、皮膚など体のなかにある細胞をもとに、「リプログラミング因子」と呼ばれる特定の因子を入れて人工的に作製した多能性幹細胞です。ES細胞に匹敵するほど若返り、多能性を持ちます。
 

消えていく細胞の代わりをつくり続ける「組織幹細胞」

皮膚や血液、筋肉など決められた組織や臓器に存在するのが「組織幹細胞」です。自分の持ち場で消えゆく細胞の代わりとなる細胞をつくり続けています。かつては、血液をつくる造血幹細胞であれば血液系の細胞、神経細胞であれば神経系の細胞と決められた一つの細胞にしか分化(変化)しないと考えられてきました。しかし、組織幹細胞のなかにも多能性をもつものがあることがわかってきました。
ES細胞やiPS細胞のようにすべての細胞に分化するわけではありませんが、複数の細胞に分化することが確認されています。このことから再生医療に活かす研究が盛んになり、2013年7月時点で、80件以上の臨床研究が報告されています。
神経幹細胞、造血幹細胞などさまざまな組織幹細胞が発見されていますが、なかでも注目を集めたのは骨髄由来の組織幹細胞です。骨髄のなかに存在する「間葉系幹細胞」は、筋肉や軟骨、神経などに分化します。2019年からは札幌医科大学で、脊髄損傷の治療に骨髄由来の幹細胞を用いた薬が使われています。
アヴェニューセルクリニックで用いているのもこの「間葉系幹細胞」です。
 
 

再生医療の材料として注目されているのが「間葉系幹細胞」

再生医療においてホットなキーワードが「間葉系幹細胞」です。この「間葉系」の「葉」とは、「胚葉」の「葉」です。胚葉は受精卵が何回か分裂して成長した細胞のかたまりのことで、内胚葉、中胚葉、外胚葉があります。それぞれの胚葉から臓器などがつくられていくのですが、「間葉系」は心臓や血液、骨、軟骨などをつくる「中胚葉」から発生した未分化の組織と考えられています。
近年、骨髄のなかに存在する間葉系幹細胞と似た性質をもつ幹細胞が皮下脂肪にもあることがわかってきました。「脂肪由来間葉系幹細胞」と呼ばれるもので、組織幹細胞のなかでも採取が簡単で組織量も豊富にあることから、再生医療の材料として注目を集めるようになりました。現在、脂肪幹細胞を用いた治療が多くの医療機関で行われています。
たとえば、膝や肘の変形性関節症では、関節内に脂肪幹細胞を注射する治療が行われていますし、脳梗塞、多発性硬化症などの疾患にも治療効果があることがわかってきました。
アヴェニューセルクリニックでは、クリニック内で脂肪幹細胞を培養する施設があり、変形性膝関節症や皮膚の加齢性変化、脱毛症をはじめ、さまざまな治療を行っています。具体的な治療法については改めてお話しましょう。

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