2023年2月アーカイブ

「康子、薬を贈る。拝してこれを受く。曰く、丘未だ達せず。敢えて嘗めずと。」 論語 郷党

 

医薬品というと、みなさんどんなものが思い浮かびますか?

痛み止めで有名なロキソニンは、思い浮かべやすいものの一つかもしれません。日本には承認されたものが約16,000品目あるとされています。

 

承認と書きましたが、これは安全で使用しても大丈夫とお墨付きをくれる認定する組織があります。PMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)とよばれる独立行政法人で、平成16年4月1日に設立されました。

 

この組織、さまざまな認可を行うのですが、その一つに再生医療にかかわる再生医療等製品も認可しています。

 

では再生医療等製品といわれて、具体的な名前が挙がる人はいますでしょうか。実は医師でも結構少ないかもしれません。それもそのはず。2022年3月末時点で承認されたものが16品目しかありません。実に医薬品全般の1,000分の1で、レア品目です。慎重な審査を経て認可されるのですが、少しずつ増えてきています。

 

結局そのレアな薬って何なん?といわれるかもしれません。定義としては、「1.細胞に培養などの加工を施したものであって、身体の構造・機能の再建・修復・形成するもの、疾病の治療や予防を目的として使用するもの。

2.遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用するもの。」

のうち、法令で定められたもの。

とされています。

 

あえてものすごくざっくり言ってしまうと、「細胞や遺伝子などの新しい技術をもとに作られた薬」となります。

 

例えば、われわれ形成外科医にとってなじみ深いものに人工培養表皮があります。ジェイスという製品で、命に係わるような全身のやけどや生まれ持って体中が黒くべたーっと広いほくろ となっている人に対して、用いられます。

 

従来の治療では、命に係わるほどのひどい全身やけどに対しては、手術で皮膚を他から持ってきて植えてあげる 植皮術というものが必要になるのですが、人の皮はくっつかず、本人のものでないといけません。ただ場合によってとってくるところもないくらい丸焦げ状態の超重症な方もいるわけで、小さな皮膚を培養して広い範囲を覆えるようにしたものがこの製品です。

 

自分も10年以上前に使用したことがありますが、妙に感動した記憶があります。

 

以前やけどに対する遺伝子治療に関して説明した会もありましたが、あれは研究レベルでのお話。こちらの再生医療等製品は、目の前の患者さんに使用できるレベルのお話。間に製品化、治験、承認と長い時間が必要です。

 

近年はとても重要なものに関しては承認されるまでの期間を短くしましょうという動きも出てきました。COVID関連で少し話題になった特例承認や先駆け審査指定品目などです。世界に先駆けた革新的医薬品・医療機器・再生医療等の製品を日本で早期に実現するべく、審査にかかる時間が大体8か月から5か月程度まで短縮しています。

 

冒頭に紹介した論語では、孔子が贈られた薬についてよく知らないので、まだ飲まないと慎重な姿勢であったことが記されています。そりゃ誰だってよく分かったうえで安全な薬を使いたいですよね。

 

日本において最先端の医療が 安全、かつ速やかに広まるように、今後も頑張ってほしいと願う次第です。

 

ではまた!

 

(加藤基)

 

参考資料

 

PMDA

PMDAについて | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

 

PMDA 再生医療等製品

再生医療等製品 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)

 

こんにちは。アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。

今回は趣向を変えて、細胞治療の法律のお話をさせていただきます。

細胞治療を安全に行うための法律が厳格にあります。

このブログを最後まで読んでいただくと、細胞治療はどの様な法律の下で行われているのか知る事ができ、

安心して細胞治療を受ける事ができます。

 

再生医療の法律

 

法律が制定される前は、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」というガイドラインがあり、

そのガイドラインに従って、臨床研究をしていました。

その後、安全性を確保するために「再生医療の安全性の確保等に関する法律」

医薬品・医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保に関する法律(薬機法)」の2つが制定されました。

「再生医療の安全性の確保等に関する法律」は略して再生医療安全確保法とも呼ばれていて、

当院の様な臨床を行うクリニックはこの法律を守って治療をしています。

製薬会社などで、細胞を使った薬を作る様な場合は薬機法に従って行っています。

今日はこの中で2014年11月に施行された、「再生医療の安全性の確保等に関する法律」についてお話をしていきます。

 

「再生医療の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」のポイント

 

リスクに応じた再生医療等の提供計画を厚生労働大臣に提出

病態やリスクに応じて行う再生医療の治療の計画書を、厚生労働大臣に届け出をしなければいけません。

この届け出をしていないと法律違反になってしまい、罰則も定められています。

 

医療機関が治療法の届け出を行う時に、認定再生医療委員会の審査にパスをしなければいけません。

日本全国にある認定再生医療委員会は、再生医療の妥当性を判断・審査をする独立した機関です。

その審査をパスした医療機関だけが、再生医療の治療を行う事ができます。

 

再生医療等安全性確保のイメージ図

※厚生労働省HP 再生医療等提出計画の提出等について(概要)

 

リスクの3段階

第一種(リスクが高い)

臨床で使用した前例が無い、あるいは他人の細胞など人体に対してのリスクが高いとされています。(iPS細胞やES細胞など)

 

第二種(リスクが中程度)

自分自身の幹細胞を培養して、自身の体内へ戻す治療などが第二種です。

培養するとなると体外へ出ている時間があり、加工などで人の手が加わるので中程度のリスクとされています。(培養した幹細胞など)

当院は、この第二種の治療を行っております。

 

第三種(リスクが低い)

代表的なのはPRP療法で、怪我をした時に止血の役割をする血小板を加工して作った製剤を肌などに打ちます。(PRP療法やAPS療法)

 

リスクに応じた手続きのイメージ

※厚生労働省HP 再生医療等提出計画の提出等について(概要)

 

医療機関が自院で治療用の細胞加工物を製造する場合は厚生労働大臣への届出

自院で使う細胞を作ったり加工したりする場合、届け出が必要になります。

また、自院ではなく細胞の加工を外部に委託する場合は、厚生労働大臣から許可を受けた企業に委託が可能になります。

再生医療を行う場合は、厚生労働大臣の許可がなくては行ってはいけないという事です。

 

この様な法律や審査機関があり、そのルールをパスした治療法だけが患者さんへ提供する事ができます。

厳しい審査をくぐり抜けているので、安全性が確保されています。

再生医療は新しい治療法なので、まだまだ一般的には馴染みが薄く安全性に不安がある方もいらっしゃると思います。

その様な方は、ぜひ当院へお気軽にご相談下さい。

 

今回の内容は動画もご覧いただけます。

 

 

「管仲なかりせば、吾その髪を被りじんを左にせん。」 論語 憲問

 

あけましておめでとうございます。襟を正して、髪をそろえて、新年のご挨拶を申し上げます。

 

さて、身なりを整えて挨拶をするのは礼儀ですが、論語の中では一度だけ出てくる(毛)髪。管仲という立派な人がいなければ自国の文化を保つことができず、髪を整えず、衣服(じん)も左前で着ることになったであろう、と論語で孔子は述べています。

 

われわれにとって身近な存在であり、ないと困る毛髪。再生医療の最前線という切り口から、最近のレビュー論文を用いて再生医療がどのようにして毛髪に効くのかに触れたいと思います。

 

髪の毛はだいたい10万本あるといわれています。毛は毛母(もうぼ)細胞が細胞分裂することで新しく作られますが、大きく分けて3つの時期があり、それぞれ成長期、退行期、休止期とよばれます。このサイクルは毛周期と呼ばれ、だいたい3~6年で1周します。AGA(男性型脱毛症)の宣伝などで割と一般化してきたかもしれません。

 

その毛母細胞、単独で毛を作り続けるわけではありません。サポート役である毛乳頭(もうにゅうとう)細胞が重要な役目を果たします。核家族でたとえると、母親が子供を産んで忙しい状況、それを支える父のような存在でしょうか。幹細胞治療の影響は様々言われていますが、特に毛乳頭細胞への影響が指摘されることが多いです。

 

専門的には、、、幹細胞を投与すると毛乳頭細胞にWnt/β-Catenin(ウィント/ベータ-カテニン)シグナルが作用し、発毛が促進します。すこし具体的には、幹細胞から分泌される成長因子が成長期を延長すること(FGF-7)、細胞成長を誘導すること(ERK活性化)、毛包の発達を促進すること(βカテニン)、アポトーシスのきっかけを抑制すること(Bcl-2放出とAkt活性化)を通して発毛に影響を与えることが考えられています。

 

うーん、わかりにくいですね。

というわけで、ここから少し、トウハツ地区に住む妄想アタマノ家 一家物語をひとまく。

 

さいたま市とほぼ同じ規模のトウハツ地区は、子供人口10万人を有し、日本にとって欠かせない場所。各家庭では5年に一度 子育てをして、立派に成長した子供らは「抜け毛」を通じて卒業していきます。ずっと こども人口は減らずに来たのですが、最近は変化が見え始めてきたようです。

 

このトウハツ地区に居を構える、典型的な一家のアタマノ家。母親(毛母細胞)と父親(毛乳頭細胞)が仲良く暮らしていました。

しかし最近は年をとってきたためか、自分たちも疲れてきたし、町も高齢化の影響で活気は減少。お上からのストレスで父親は家庭内で協力しなくなり、母親もくたびれた様子となってきたために、休止期が長くなり「もうそろそろ引退かな」とあきらめムード。

 

そこでトウハツ地区は思い切った施策にでます。ヘソマワリ地区から元気いっぱいの関西ボーズ(幹細胞s)を集団で移住させました。

もちろんアタマノ家の周りにもたくさん。育ちは全然違うはずなのに、不思議とコミニュケーションは問題なくとれます。

 

するとどうでしょう。なんだかんだと元気な関西ボーズたちが騒ぎ立て、何かとかかわることの多い父親に働きかけます。

もうだめだと思っていた一家を思いとどまらせ(アポトーシスのきっかけを抑制)、子育てが始まった父親を励まします(細胞成長の誘導・成長期の延長)。すると彼らの発するポジティブな行動も相まって、子供はぐんぐん成長(毛包の発達が促進)。

結果として、元気なこどもの人口も増え、トウハツ地区に活気がもどりました とさ。

 

もっとほかにも良い影響はあるのですが、ひとまずチャンチャン。だいたいこんな感じです。書いてて思いましたが、漫画『はたらく細胞』みたいですね。

 

なお本ストーリーは完全に自作です。アタマノ家でご登場いただいた、さいたま市や関西には何の恨みもありません。最近まで約6年さいたま市に在住、生まれが関西であることを告白します。

 

ではまた!

 

(加藤基)

 

参考資料

 

Gentile P, Garcovich S. Advances in Regenerative Stem Cell Therapy in Androgenic Alopecia and Hair Loss: Wnt pathway, Growth-Factor, and Mesenchymal Stem Cell Signaling Impact Analysis on Cell Growth and Hair Follicle Development. Cells. 2019 May 16;8(5):466. doi: 10.3390/cells8050466. PMID: 31100937; PMCID: PMC6562814.

 

さいたま市こども人口(15歳未満)データ

関東・関西・中部地方の市区町村別子ども人口数データ - いこーよ総研 (iko-yo.net)

 

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