2016年8月アーカイブ

自家培養表皮

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再生医療はこの10年どう動いてきたか、この先10年でどう動くかを見定めることができれば、わたしたちにとって再生医療の恩恵はより大きいものとなるでしょう。様々な領域の再生医療を様々な観点から検証します。
 
もうそろそろ10年が経ちますが、2007年、日本で最初の再生医療製品が発売されました[1]。ジャパンティッシュエンジニアリング社の自家培養表皮「ジェイス」です。「ジェイス」は患者さんの健康な部分の皮膚を少量採取して工場に運び、そこで培養して増やし、シート状の人工の皮膚を作成して病院に送り返します。皮膚を受け取った医師は、やけどにより皮膚を失った部分に移植します。この治療により重症熱傷患者の救命率が飛躍的に向上しました。
 
ジェイスはハーバード大学のHoward Green医師が1970年代に研究開発し、1987年に初めて臨床応用した技術を元にしています。われわれヒトを含めて、ほ乳類の皮膚はおおざっぱに分けて2層に分かれています(図)。
 
表皮図-01.jpg
 
表層は表皮ケラチノサイトといわれる細胞が積み重なった層、深層は主にコラーゲン線維からなる真皮層です。真皮層には少数の線維芽細胞を含んでいます。Green博士は、まずSwiss-3T3細胞と呼ばれる特殊なマウスの線維芽細胞をあらかじめ平面培養し、その上に表皮ケラチノサイトを蒔くことで薄いシート状の表皮を作ることに成功しました。Swiss-3T3細胞は、表皮ケラチノサイトに栄養を与えたり、増殖しやすい環境を作ったりする役割があり、フィーダー細胞と呼ばれています。表皮ケラチノサイトが育った後は、フィーダー細胞は死んで剥がれてゆきます。残るのは表皮ケラチノサイトだけです。
 
したがって、この再生医療製品は基本的に培養「皮膚」ではなく、培養「表皮」です。真皮を欠いているのです。本当の意味での培養皮膚というのは残念ながら実用化されていません。さらに言うと、皮膚には皮膚付属器といって、毛包(毛穴や毛根、皮脂腺のこと)や汗腺があり、神経終末や毛細血管、リンパ管も含まれています。したがって、われわれが作りえたのは、皮膚のごく一部であると言うことができます。
 
とはいっても、人類がはじめて培養という手法を使って人体の一部を再生するという、本当の意味での再生医療に成功した記念碑的な技術です。実験室の中だけであった技術を工業化して、人間に使えるまで製品化するということに、さまざまな障壁があったはずです。その障壁を越えるためにGreen医師の後、40年もかかったということであり、培養表皮の研究・実用化に関わった方々に頭が下がります。
 
真皮の再生医療製品については実用化されているものがあり、また別の機会に紹介したいと思います。また、毛包の再生医療は動物実験では成功していますが、臨床においては成功していません。この話もとても面白いので、また別にシリーズで紹介したいと思います。
 
 
 

 

 

 

 

これからの再生医療について

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再生医療はこの10年どう動いてきたか、この先10年でどう動くかを見定めることができれば、わたしたちにとって再生医療の恩恵はより大きいものとなるでしょう。様々な領域の再生医療を様々な観点から検証します。 
 
10年といえば生命科学の進歩にとっては比較的長い時間です。 
  
少し古い話ですが2014年、米国ミネソタ州議会においてとある新法が可決されました。以降10年間で、ミネソタ州内の再生医療関連の研究に対して5000万ドル(約60億円)を援助するという内容の法案です。[1] ミネソタ州といえば、全米トップクラスの総合病院であるメイヨークリニックが有名であり、再生医療関連の臨床試験も数多く実施されています。 
  
通常、生命科学分野で小規模 の基礎研究であれば2-3年で300-500万円あれば形になりますが、比較的大きなグループで3-5年かけて行う横断的研究であれば通常1-3億円程度の研究資金が必要になります。ミネソタの例では、億円単位の研究を毎年3-4件の割合で助成することになるそうですが、10年の間に当然のことながら臨床研究まで到達する研究が出現することを想定しているようです。10年で60億円の税金をマウスの研究だけに使うというのは勿体無い話で、民意にも背くでしょう。また、ひとつの基礎研究から臨床研究まで実施する場合、最低でも5年で数億円はかかるので、全体の助成数に対して「当たる」割合を勘案すると10年60億円という資金援助は現実的な計画といえます。 
 
実は、この規模の公的資金がひとつの州政府 によって再生医療分野に投下されるのは、米国にとっては目新しいことではありません。同規模の研究資金を援助する州がミネソタ州以外に15州あるそうです。ミネソタから遡ること10年前の2004年には、これをはるかに上回る規模の資金が、カリフォルニア州のES細胞研究を主眼とした再生医療研究および関連研究施設California Institute for Regenerative Medicine (CIRM)の設立のために投入され、注目されました。その額は10年間で30億ドル(当時約3240億円)。連邦政府ではなく州政府予算から捻出されています。[2] 米国で再生医療関連に投入された最初の大型事業とされています。その資金の大きさも驚きですが、これが住民投票によって決定されたという事実も興味深いところです。 
  
このように米国ではこの10年の間に、再生医療に対する公的資金の注入が非常に活発となってきています。また、公的資金だけではなく患者団体などからの大型資金の援助も非常に多く、社会的支持も得ていることが想像されます。そして、10年、もしくはそれ以上の時を経て、その成果が続々と明らかになってきています。成果とは、もちろん臨床応用という成果です。   
 次回、その臨床応用に関してのup to dateをご紹介したいと思います。 
 
2. ”California Proposition 71” https://en.wikipedia.org/wiki/California_Proposition_71_(2004)) 

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